台湾 ソフトウェア関連発明審査基準の最新改訂案を公表

Vol.88(2021年5月6日)

台湾特許庁は5月5日、ソフトウェア関連発明審査基準の最新改訂案を公表した(公表内容はこちら)。この改訂案は以前の改訂草案を基に今年2月の公聴会の結果を受けて内容が修正されたものである。今後は各界からの意見募集を経て、近いうちに施行される予定である。改訂案では日本を中心とした各国の審査基準を参考として、発明適格性(発明該当性)、明確性、新規性や進歩性に関する内容に大きな変更が加えられているとともに、多くの事例が追加されている。以下に主な内容を紹介する。

(2021年6月追記)今回の改訂草案の内容は2021年7月1日から正式施行されることが決まった。

発明適格性(発明該当性)

現行の内容

「コンピュータプログラムが実行される時、プログラムとコンピュータとの間の通常の物理現象を超えた技術的効果が生じた場合、課題を解決する手段は全体として技術性を有する。」と規定されている。EPOの審査基準内容と類似しており、発明該当性については発明がシステム全体に技術的効果(例えば情報システムの安全性の増強、情報システム実行の効率向上など)を生じるか否かに重点が置かれている。発明がシステム全体に技術的効果を生じる場合、当該発明は適格性を満たす。また、現在の審査基準は不明確であり、発明該当性に対する判断基準にもばらつきが見られるという声が出ている。

また、抽象的アイディアと技術的要素の両方を含む「混合型請求項」の発明適格性に関しては、「混合型請求項」の発明が技術的思想を有するか否かによって判断される。台湾特許庁が2019年12月のシンポジウムで公表した、「混合型請求項」の発明が技術的思想を有する否かの判断フローを以下に示す。

 

改訂案の内容

改訂案では「コンピュータプログラムが実行される時、プログラムとコンピュータとの間の通常の物理現象を超えた技術的効果が生じた場合、課題を解決する手段は全体として技術性を有する。」という内容が削除され、また現行内容において技術的思想でないものとして挙げられている項目「単純にコンピュータを利用するもの」も削除されている。改訂案では発明該当性の判断を2つのステップに分けている。

(1)明らかに発明に該当するか否かを判断

明らかに発明に該当するものとして、「機器に対する制御を行う者、又は制御に伴う処理を具体的に実行するもの」及び「技術的性質のデータに基づいて情報処理を具体的に行うもの」が挙げられている。明らかに発明に該当しないものとして、「自然法則を利用していないもの、技術的思想でないもの」が挙げられている。明らかに発明に該当するか否かを判断できない場合、次のステップ(2)に進む。

(2)ソフトウェアによる情報処理はハードウェア資源を利用することで具体的に実現されているか否かを判断

「ソフトウェアによる情報処理はハードウェア資源を利用することで具体的に実現されている」とは、ソフトウェアとハードウェア資源の協働によって情報処理の目的に基づいて特定のデータ処理装置又は方法を実現するものを指す。ソフトウェアがこの要件と満たす時、当該ソフトウェアと協働するデータ処理装置、データ処理方法又は当該ソフトウェアを読み込む記録媒体なども、発明該当性を満たす。

進歩性

現行の内容

現行審査基準では進歩性を有しない発明について、「技術分野の転用」、「公知技術特徴の付加又は置換」、「人類が行う作業方法のシステム化」、「従来ハード技術で実行される機能をソフト化」、「技術効果の特徴に役立たない」という項目が挙げられ、それぞれについて簡単な説明がされているに過ぎない。

改訂案の内容

発明該当性とは異なり、進歩性の判断部分においてはまず、「第三章第3節の進歩性の一般的規定を適用する」と加えられており、ソフトウェア関連発明であっても通常の発明における進歩性判断基準が適用されることが明文化されている。そして通常の発明における進歩性判断基準の内容の多くが追加されている。例えば当業者、進歩性の判断ステップ、進歩性を否定・肯定する要素などである。進歩性を否定・肯定する要素については以下のように規定されており、ソフトウェア関連発明特有の内容となっている。

現在台湾特許庁による審査や裁判所による審理において、進歩性を否定する理由として最も多用されているものは「簡単な変更」である。よって、改訂案でも進歩性を否定する要素における簡単な変更においても、現行内容で挙げられているものを含む多数の項目が挙げられている。

ここで「複数の引用文献を組み合わせる動機」における機能又は作用の共通性では、「ソフトウェア技術分野における技術手段は通常、応用される分野に制限を受けずに実質的に同一の機能又は作用を有する。複数の引用文献の技術内容が、ソフトウェア技術分野の異なる技術手段によって実質的に同一の機能又は作用を達するのであれば、異なる技術分野に応用されていたとしても、機能又は作用の共通性を有する。」と規定されている点に注意が必要である。

AI関連の審査事項の内容を追加

改訂案では、人口知能(AI)関連発明についての審査事項の説明や発明適格性、進歩性、記載要件に関する事例が追加されている。また「AI関連発明が医療関連の情報処理を行う者である場合、当該方法発明が人又は動物の診断、治療方法(特許を受けることができない)であるか否かに注意しなければならない。」という内容が追加されている。

クレームの記載、審査方法に関する規定を追加

物の発明クレームにおいて機能による限定を認める

改訂案では物の発明における請求項の記載方法について、「全ての特徴は構造上の限定条件である必要はなく、発明が達成する機能により限定することができる。」と規定されている。

ミーンズ・プラス・ファンクションにおける審査内容(立証責任)を規定

改訂案では機能表現を使用したクレーム(ミーンズ・プラス・ファンクション)の審査において、「機能表現のみで限定されている発明について審査官はまず、限定された機能が達成又は実現される全ての装置又はステップであると当該発明を解釈して、先行技術文献の検索及び比較を行うことができる。出願人はその後、出願に係る発明の技術特徴と先行技術との実質的な差異の説明、又はmeans(step)用語と解釈すべきであること及び明細書における当該means(step)用語に対応する構造、材料又は動作及び均等範囲等の具体的な理由について立証説明する。」と規定されている。

各要件の判断に関する事例を追加

各特許要件の判断に関する事例が多く追加されている。以下にその一覧を示す。なお備考欄に記載の「日本事例」とは、日本の特許・実用新案審査ハンドブックの附属書B第1章「コンピュータソフトウエア関連発明」に記載の例に対応することを示す。

実施可能要件

番号 発明の名称 分野 備考
1-1 神経認知機能評価システム AI  
1-2 ディープニューラルネットワークを用いる不動産営業担当者のマッチングシステム AI  

 

発明適格性

番号 発明の名称 分野 備考
2-1 顧客データに用いるデータ構造製品    
2-2 メッセージ提示機能を有するAV再生装置    
2-3 コンピューターシステムを利用したマーケティング研究及び分析の方法    
2-4 自然数の和を計算する方法及び装置 数学方法  
2-5 データ暗号化方法 数学方法  
2-6 デジタル画像の処理方法 数学方法  
2-7 ネットワーク配信記事保存方法   日本事例2-2
2-8 商品の売上げ予測用プログラム製品   日本事例2-3
2-9 ポイントサービス方法   日本事例2-4
2-10 駐車場管理方法   日本事例2-7
2-11 無人走行車の配車システム及び配車方法   日本事例2-9、10
2-12 宿泊施設の評判を分析するための学習済モデル AI 日本事例2-14
2-13 交通トラフィック量予測システム AI  

 

進歩性

番号 発明の名称 分野 備考
3-1 無線LANの位置情報サービス方法    
3-2 オンラインマッチングシステム    
3-3 化学材料検索装置    
3-4 無人店舗管理システム IoT  
3-5 交通トラフィック量予測システム AI  

まとめ

今回の台湾ソフトウェア関連発明審査基準の改訂内容は、主に日本の審査基準の内容を参考にしていると思われる。また日本の特許・実用新案審査ハンドブックに記載の事例も多く追加されている。ただ細かい点においては台湾特有の規定が含まれていることから、実際の特許要件の判断や明細書・クレームの記載の際には注意すべきである。

今回の審査基準改訂草案はまだ正式に施行されていないが、順調にいけば今年6月にも施行されると思われる。施行日が決まった場合には、また改めて報告する予定である。

キーワード:台湾 特許 法改正 新規性、進歩性 記載要件 電気

 

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